COLUMN

レ・ヴァン・ヴィヴァン

山梨県出身の貴博さんと北海道出身の朋子さん。山梨県も北海道も名の通った素晴らしいワイン産地だ。にも関わらず、荻野ご夫妻はなぜか長野県東御市でワイン造りに精を出す。この辺りからして、一筋縄ではいかない何かを感じてもらえるだろう。けれども、ご夫妻にとっては自然な流れでここに来たのだ。

冷涼系ブドウを育てたいと思っていたご夫妻にとって、長野県東御市は県内有数の冷涼な気候でドンピシャ。また、千曲川ワインバレーとして県が力を入れている先でもあり、サポート体制もしっかりしているところも安心材料だった。2016年からワイン用ブドウの栽培を始め、2019年秋にはワイナリーも完成した。今回は、そのワイナリーでお2人の哲学をじっくりお伺いしてみた。

白い壁が目を引く、雰囲気のあるワイナリー。併設する畑は、ご夫妻が委託を受けて育てているブドウの木が植わっている。

Lightening could strike.

ご夫妻は以前、東京のレストランで働く同僚だった。仕事柄、ワインの勉強としてボルドーの格付けシャトーを覚えたり、周りの大人達から薦められて、名の通ったワインを飲んだりもした。確かに、有名どころのワインは美味しいが、体で納得する味わいではなかった。ところがある日、ヴァン ナチュールを初めて飲んだ時に衝撃が走った。お出汁を飲んだみたいに体に沁み込む感じがして、「ワインって本当に美味しい!」と心底思ったのだ。

当時はまだ日本ワインブームの始まりと言われる時期で、日本でヴァン ナチュールを造っているところは少なかった。日本では無理だと言われていたのだ。そうだとしても、自分達も日本でやってみたい・・・最初にヴァン ナチュールを造りたいと言い出したのは貴博さん。朋子さんもすぐに賛同した。15年程前の話である。

その後、山梨の中央葡萄酒株式会社(グレイスワイン)で修行を重ね、フランスのボジョレーやアルザスのヴァン ナチュール生産者の元でも経験も積み、今の場所に居を構えることになる。その間、日本のヴァン ナチュール先駆者達も歩みを進めていた。ご夫妻は、金井醸造場のマスカット・ベイリーAを飲んだ時、日本にもこんな考えを持って美味しいワインを造り上げている人がいるなんて・・・!と衝撃を受けたそうだ。自分達もやらなきゃという思いを強くしたと語る。

そう、ヴァン ナチュールとの出会いによって、お2人は稲妻並みの衝撃を受け、今の道に繋がったという訳なのだ。「ジョー・ブラックによろしく」という映画をご存知だろうか?アンソニー・ホプキンズ演じる億万長者が娘に「Stay open. Lightening could strike!」と語るのだが、まさに「Stay open (心をオープンにする)」と「Lightening could strike(稲妻が打たれる(くらいの出会いがある)かもしれない!)」という言葉はご夫妻のワインに対する姿勢にぴったりと合致する言葉なのだ。

Stay Open.

リアルなものを大事にしたい

2016年にワイン用ブドウの栽培を開始した。ワイナリー(標高720m)からそう遠くない場所にある畑の標高は720~920m。ご夫妻が望んでいた通り冷涼な場所だ。と同時に日照量もある、雨が少ない、昼夜の寒暖差もある。一目ぼれした場所だった。

畑には、7年目を迎えるピノ・ノワール、シャルドネ、リースリングと、その後に植えたシュナン・ブラン、ガメイが育っている。また、ワイン用ブドウのみならず、シードル用のリンゴも植わっている。環境に優しい栽培手法を徹底していることもあり、ブドウの木の成長はゆっくりだ。去年、漸く、収穫らしい収穫ができたと言う。今年も順調に育っているそうで、楽しみだ。

畑では化成肥料も農薬も一切使わない。地層深くの土壌がどうなっているかも敢えて調べない。そもそも日本は火山が多く、黒ボク土壌の場所が多い。それに、ブドウの前に植わっていた物を知ることや、実際に雑草がどれくらい伸びているのかを見る方がよっぽど有益だ。実際に目に見えるもの、リアルを大事にする姿勢を貫いている。