COLUMN

ダイヤモンド酒造

住宅地に佇むごく一般的な建築物。

一瞥してワイナリーらしい雰囲気はなく、むしろ、街の内科クリニックのような風体。多くの注意を惹きつけるような勇んだ姿勢を感じない看板くらいが、ここがワイナリーであることを教えてくれる。ダイヤモンド酒造。日本でも指折りのマスカット・ベーリーAの赤ワインを送り出す、山梨県随一のワイナリー。その地位に登り詰めた雨宮吉男さんは、マスクをしていること以外にほとんど外交的な要素を纏わぬ、ノーガードなスタイルで現れた。農作業の途中の人ならまだしも。
そして思った。多分その辺はどうでもいいのだ。

契約農家の葡萄畑。「なんもないでしょ。」と言われたらそうなのですが、勝沼の砂っぽい土壌を識別いただけるだろうか。

「勝沼は他の町に比べると、夜温が下がりやすいんです。「笹子おろし」と言って、笹子峠から夕方風が吹き下ろしてくるんです。だから、隣町の人は「勝沼って、夕方涼しいね。」って言うんです。でも、最近は気候が変わってきていて、あまり風が吹かなくなりました。

土壌は砂っぽくて、影響している山や川砂の影響が強いので水捌けがいい。

最近はマグヴィスワイナリーさんが土壌分析をしていますが、今まではそう言ったことはやってなくて、何となくそういうものだろうという形でした。

なので、彼らの分析によって変わってくるところもあるのだろうと思います。 対して、(ダイヤモンド酒造の原料の)マスカット・ベーリーAが植えられている穂坂は、完全に粘土質です。なので、赤ワイン用品種に適している。勝沼は甲府盆地の東の縁なので、朝日が遅くて夕日が長い。穂坂は盆地の西の縁。日の当たり方が真逆なんです。朝日が早くて夕日が短い。」

山梨県甲州市勝沼、果樹栽培のみならず、国内産ワインの発祥の地として知られる土地で、ダイヤモンド酒造はワイン造りを行なっている。
元々は、近隣の農家がそれぞれの葡萄を持ち寄ってワインをつくる自家醸造施設であったが、生産量が増えたことによって金銭のやりとりが発生すようになると、税務署指導もあって、雨宮家が酒造の権利を農家から買い取り、有限会社化。のちに株式会社化を果たし、現在にいたる。

現当主の雨宮吉男さんは、勝沼や穂坂の契約農家からの葡萄を使って、ワイン造りを行なっている。

「契約栽培先を選ぶなんてのは中々できないですよね。何かしらの人としての関係性もありますから。甲州に関しては一律の値段で買っていますが、ベーリーAに関しては、畑でできたワインのクオリティで葡萄の値段を決めているので、農協の30-100%増しくらいの値段になるんですが、そういった価格での差別化はしていますけどね。」

買い葡萄のみを使用する、無理やりフランス風に言えば、ネゴシアン的なスタイルのダイヤモンド酒造。自身の理想のスタイルに近づくため、マスカット・ベーリーAの究極を目指すため、多くの注文をつけるのではなかろうか、とも思ったが、実のところはそうではない。

兼業農家や家族経営が多い中、雨宮さんが一人で各契約栽培先をコントロールすることは不可能であるし、産業としての構造がやはり山梨県とブルゴーニュでは、大きく異なる。この後引用されるデュジャックはそのネゴシアンブランドで契約農家の畑に強く介入することで有名だが、それに関するシンプルな疑問はやや筋違いということで解消しておく。そんなことが頭をよぎったのは筆者だけかもしれないが。

「農家さん達もどうしたらいいか、とか助言を求めることはあるので、こういう風にしたほうがいいんじゃないですか、というアドバイスをすることはあります。粘土質だと栄養素が抜けないので、肥料に関しても、最初からたくさん撒くよりも、足りなくなったら葉面散布で足せばいいということや、大きな房に価値がある生食と、コンパクトで凝縮した葡萄に価値がある醸造では考え方が大きく異なるので、摘房などに関して、こうしたらいい、ああしたらいい、は言います。