COLUMN

 ベルウッド ヴィンヤード ワイナリー

「センス。というのは違いますかね。なんて言ったらいいんでしょう…。」

マスクの奥の照れ笑いが容易に想像できるような口調で、言葉を探しながら、ベルウッドワイナリーの鈴木智晃さんは、自分のこだわりについてそう語る。

エボニー調の木材とマットブラックの調和が美しい、モダンなワイナリーは、2020年の春に完成したばかりだ。周囲を田畑に囲まれた新築な平屋建ては、田園風景の中でクールに異彩を放っている。

「黒が好きなんです。」

軽トラックをも黒く塗装し、自身も黒いダウンジャケットを身にまとい、黒い髭までたくわえる鈴木さん。
真新しいワイナリーのインテリアも、「木材のグラデーション」と「黒」が組み合わせられ、彼の美意識によって空間が統一されている。その意匠は細部にまでわたり、ワインのラベルからオリジナルのTシャツまで、彼の趣向が凝縮したデザインがそこここに散りばめられる。

「独立してからは、何を置くにしても、周囲には自分の好きなものだけを置くように、それだけは曲げたくないと思っています。ラベルにしても何にしても、ひとつひとつを、自分を表現する一部として考えているのです。」

おおかたサラリーマンには見えない彼であるが、同じく山形県内に位置する「朝日町ワイン」で19年間、ワインの製造に務めたキャリアを持つ。
そんな彼が、朝日町ワイナリーを巣立って、自身のワイナリーの旗を揚げたのは2017年のことだ。

「こだわって、モノづくりに携わっていると、もっといいモノを作っていきたい。という思いが当然生まれてくるというのは、まず一つあります。(朝日町ワインでは)やはり大量の原料を扱っていますが、そういった場合、一度に全てを醸造できるわけではないので、製造プロセスを回転させていかなければならない。そういった大規模な製造プロセスを管理していく中で、次第に限られた量でも、自分で栽培から醸造までを手掛けるモデルに移行したいと思うようになりました。
加えて、ワインを飲んでくれる方々との繋がりも持てたらと。自分のワインをどんなふうに飲んでくれているのか、直接感じたいと思いました。」

多くの農家から収穫が集まる第三セクターという大きな現場から、すべてを自分自身で調達し醸造する、小さな現場へ。そういった移行のきっかけの一つとなったのが、自身が製造に携わったワインが、コンクールで金賞を受賞したことだ。

「日本ワインコンクールで自分の造ったワインが金賞を受賞したときは、記憶に残っています。やはり、蔵で働いていましたらから、中々ワインを飲んでくれる方々のリアクションを感じる機会がありませんでした。そういった中で、賞をいただけたことは確かに自信になりました。」

独立に選んだ土地は、朝日町ワインのある西村山郡からは、南東に離れた山形県上山市。蔵王連峰の麓、温泉地として名高いこの土地で、タケダワイナリー、ウッディファームに続き、3軒目のワイナリーとしてスタートした。

「上山は、雪も多く降らないし、雪融けも早く、ブドウの生育期間が長く取れるというのが魅力の一つとしてあります。カベルネなど、晩熟の欧州品種の栽培に向いています。また、降水量も少ないですね。400-600㎜程です。加えて、町全体として、空間が非常に開けていて、日当たりがいいんです。」