COLUMN

ドメーヌタカヒコ

前回の訪問からは1年弱の時間が流れたことになる。

コロナ禍という、目まぐるしく変化する状況の中、それに応じて舵取りを迫られるのが一般的だろう。しかし農家にとっては、特に需要に事欠かないスター生産者にとっては、この短い期間における大きな変容というものを予想するのはむずかしい。

「うちは基本的には新しいことには手を出さないドメーヌですからね。」と、やはり心当たりがないような鈍い反応を見せた曽我さんであったが、しかし、これもまたやはり一筋縄ではいかなかった。彼がまず挙げたのは「輸出」だった。

輸出を始めていくことになりました。

とはいっても、大量に出すのではなくピンポイントで、ある程度ブランドの宣伝・構築に役に立つレストランさんに流してもらうようなかたちです。ありがたいことに、たくさんお声もいただいているので、そういったところからブランド構築をしていければと。

その中で、余市の他のワイナリーや中規模ワイナリーも一緒に出していくことが出来るようなシステムを探すこともやっていければいいですね。


「ブランド構築」というビジネスライクな言葉を置くと、シンプルで洗練されたメッセージで海外市場における認知を確立するような、グローバル戦略を思い浮かべてしまう。たしかに「ナナツモリ ピノ・ノワール」と「ジャパニーズ・ウマミ、ダシ」を直列に結び、イメージを最大限流れやすくすることもできるだろう。

しかし、曽我さんがそのようなことを許すだろうか。そのようにはどうにも思えない。
「シンプルで低コスト、かつ忙しい農家でも出来るワイン造り」という曽我さんが掲げる命題と「降水量が多く、肥沃な土壌が広がる土地」という環境から、「ナナツモリ」の味わいを切り離すことはできない。

それは、人的因子と環境因子を複合した、「余市のテロワール」という必須の土台であり、ワインを語るコミュニケーションのバックグラウンドとなるものだ。そして、そのテロワールは世界的にも稀な例であり、国外での理解には長いストーリーが求められるはずである。