COLUMN
山形・酒井ワイナリー vol.2
初めて酒井ワイナリー5代目当主の酒井一平さんを取材したのは約5年前。クロード・レヴィ=ストロースが唱えた構造主義や、同氏の代表作『野生の思考』の中で紹介されている「ブリコラージュ(日曜大工)」という概念を織り交ぜながら、ご自身のワイン造りについて語ってくれた。
今回も、ちょっと小難しい…(すみません!汗)、もとい、哲学的で思索的な印象はそのままに、更なるステージへ足を踏み入れている姿をみせてくれた。他のワイナリーの方々と話をしていると、酒井さんを「超人的」と評されるのをよく耳にする。点在する耕作放棄地を管理するだけでも大変なのに、化学農薬、殺虫剤、化学肥料、除草剤無しでブドウを栽培。そして、東北最古のワイナリーの当主という立場もあってか、様々な役職にも付いている。確固たる信念があるからこその行動だとは思うが、なかなかできないことだ。
今回は、そんな「超人的な」酒井さんの考え方の軸となる部分や現在の様子、そして今後の展望や課題について話を伺った。


▲ 絵本に出てきそうな愛らしさのワイナリー外観。ワイナリーは赤湯温泉街にあり、そぞろ歩きも楽しめる。
『その土地の普通』を追い求めて
酒井ワイナリーは、1892年創業の東北で最も長い歴史を持つワイナリーだ。2004年に酒井さんが5代目を継いで20年強が経過している。今でこそ、「酒井ワイナリー=自然な造りのワイン」というイメージを持っておられる方が多いと思うが、化学農薬、殺虫剤、化学肥料、除草剤無しでブドウを育て、野生酵母で発酵し、無清澄・無濾過、亜硫酸は極少量ないし無添加でワインに仕上げる、という全行程が確立したのは、5代目になってからである。このスタイルに行きついた背景には何があるのだろうか?

▲ ワイナリーの中に貼られている酒井ワイナリーの歴史。
昔、(ドメーヌ・オヤマダの)小山田さんが主宰していた若手勉強会に参加した際に、自分で醸造したワインを持って行ったことがあるんです。『どうやって造ったの?』と聞かれたので、『普通に造りました』と答えたら、『普通って何?』って聞かれたんです。その時に絶句してしまって。自分の言う『普通』って何なんだろう?と凄く考えるようになりました。そこから、様々な書物を読んだりして自分なりに思考を深めたんです。
こんな禅問答がある勉強会に恐ろしさを感じなくもないが、この出来事をきっかけに、構造主義を始めとする哲学書や自然科学の本を読み漁るというところが、酒井さんが酒井さんたる所以なのかもしれない。
▲ 深い思考を重ねた上で、ワイン造りに向き合う酒井さん。